漁業 管理

漁業 管理

太平洋諸国の生活様式、繁栄、経済的主権を 脅かす乱獲

ロバート・T・ヘンドリクソン(Robert T. Hendrickson)大尉/米国沿岸警備隊

グロは世界各地の何億人もの住民にとって重要な食物であるというだけでなく、西太平洋と中部太平洋のマグロ漁場に点在する多くの国々の主要な経済推進力でもある。

メバチマグロの刺身からツナ缶に至るまで、今日市場で販売されているマグロの約 60%は赤道南北5度に広がる「ツナベルト」で漁獲されたものである。

太平洋諸国の多くは自国の繁栄と経済的主権のために漁業に特に依存している。たとえば、キリバスでは魚類が食物の全タンパク質の 28.8%、動物性タンパク質の 55.8%を占めている。国連食糧農業機関(FAO)によると、この数値は同地域における他の太平洋諸国でもほぼ同様である。

世界銀行の報告書によると、漁業収益が国内総生産(GDP)で占める割合はキリバスが 64%、ツバルが 46%、マーシャル諸島が 32%、ミクロネシアが 24.4%となっている。また、トンガの人口の 33%が、サモアの人口の 42%が漁業分野に従事している。  

IUU 漁業(違法・無報告・無規制漁業)

乱獲により、上記の国々における将来的な食料安保と経済的主権が脅かされる可能性がある。世界銀行、ピュー慈善信託、太平洋諸島フォーラム漁業機関(FFA)、欧州連合(EU)などの別の調査によると、漁業従事者は未報告で同地域のマグロ漁獲割当量を 30%も上回る量を漁獲している。成魚を過剰収穫すると、親魚が枯渇して産卵が激減することで、漁業資源が崩壊する可能性がある。

2018 年 11 月にパプアニューギニア州モレスビー港で開催されたアジア
太平洋経済協力会議で、キリバス代表のデビッド・ティアボとポー
ズをとるニュージーランド首相ジャシンダ・アーダーン。ロイター

同リスクを考慮に入れて、インド太平洋諸国は協力してこの貴重な資源を保護し、地域を安定化させる必要がある。中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)および太平洋諸島フォーラム漁業機関が、同地域における魚の個体数を管理し、IUU漁業を取り締まる主要機関となる。

マグロ資源は回遊性が非常に高いことから、漁業管理が一層困難である。今日キリバスの排他的経済水域(EEZ)で泳いでいるマグロは、明日にはマーシャル諸島の排他的経済水域または公海のどこかに移動しているかもしれない。区域間におけるマグロの自由な移動により、執行環境が挑戦的なものとなる。同地域だけでなく、世界的にマグロを含む多くの魚介類乱獲が発生している。

IUU 漁業は地域内外の緊張に繋がる。太平洋諸島フォーラム漁業機関による 2016 年の報告書によると、太平洋諸国で多発している IUU 漁業による漁獲は年間で 600 億円(6 億米ドル)以上に相当する。国内総生産が年間約 200 億円相当(2 億米ドル)のキリバスなどの国々ではその損失は相当な額となる。グリーンピース・ニュージーランド (Greenpeace New Zealand)によると、同地域で太平洋諸島の漁船により漁獲されるマグロは全体のわずか 20%に過ぎない。

広範にわたる影響

しかし、漁業は食料安保の問題だけではない。これは同地域の住民の生活様式であり、かつ経済的主権の基盤を成すものである。

数多くの事件からもわかるように、漁業資源を健全に保てば、食糧確保、経済的保障、地域における安全保障に直接、好影響が出る。つまり食糧不足は多くの安全保障問題に悪影響を及ぼす。集団移動を引き起こす大きな原因になり、人身売買に携わる人々など、国際犯罪集団が地域で足場を確立する後押しとなっている。  

海外から来た遠洋漁民がソマリアの排他的経済水域で、法律を遵守せず過剰に漁業を行ったせいで漁獲量が著しく減少し、漁民は海賊になりアフリカの角から離れた。1970 年代後半にアイスランドとイギリスの間で漁業権の紛争が発生し、1990 年代後半にはカナダとスペインの間で同様の小規模な衝突が発生した。また乱獲により、近年、漁業権を主張する中華人民共和国(中国)と東南アジア諸国との間にも緊張が高まっている。例えば、
中国はベトナムやフィリピンの漁師に対して攻撃的な嫌がらせを行なっている。

漁獲量の大幅の低下は太平洋諸国の多くの国々において、経済危機も引き起こしている。漁獲量に経済が依存しているため、これらの戦略的に重要度の高い国家は、中国が採用するような小切手外交や債務帳簿外交といった戦略に脆弱性を露呈している。また海賊行為、暴力的な過激主義、国際犯罪組織、その他の不安定要素にも影響を及ぼす可能性も高まる。 

今後の方向性

責任をもって漁業を行う国家は、太平洋諸島諸国の領海で起こる、報告されていない乱獲に対処するため、協力する必要がある。地域を協力的に管理すれば、「ツナベルト」の持続可能性を実現するうえで大きく役立つと思われる。同盟国やパートナー国家は効果的な海洋統治の構築と、地域内での政治的な意思を生み出す支援を行うことができる。国際社会では監視と取り締まりができるよう能力を確立するために、努力を惜しんでいない。
しかし、最先端のスマートな巡視船と組み合わせた、最新ハイテク監視システムは、による最終的な執行力がない限り、有効ではないことが証明されている。中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の保全管理措置法(CMM) は、漁獲記録や転送手続きに関して詰めが甘い。  

2018 年 10 月、東京で再開された豊洲市場で冷凍マグロをチェックするバイヤー。AP 通信

乱獲への対処は、WCPFC の責任をもって漁業を行う国が集まり、乱獲を規制する厳格な CMM を実施しようとすることに端を発している。さらに WCPFC は、公海におけるすべてのセグメント積み替え搬送を禁止する規制を実施しなければならない。つまり沿岸国は排他的経済水域内での漁獲量および積み替え輸送について同様の国内法を採用し、施行しなければならない。また、その法律に違反した IUU 漁業従事者を、基本的に国家収入を奪うことになるため、積極的に訴追する政治的意志を持つ必要がある。

多くの責任ある大国は、乱獲に係るこの新たな危機に対処できるよう積極的に取り組んでいる。例えば、ニュージーランドは、フィジー領海において 3 か月間の IUU漁業パルス行動を支援するためにニュージーランド海軍巡視船を配備し、150 以上の海洋強制乗船を実現した。米国と地域諸島の間の 11 に及ぶ二国間シップライダー協定により、近似した行動が可能になった。米国はまた、将来において、シップライダー国の検察能力の向上に役立つ船上法的支援を想定している。

オーストラリア、フランス、ニュージーランド、米国は、長年にわたって太平洋諸島・地域と協力し、海洋領域意識と安全保障能力を構築してきた。日本とカナダも、この交易領域で取り組みを行っている。  

米国と 16 の太平洋諸島間の継続的協定である南太平洋マグロ協定は、1988 年に施行され、1993 年および 2002 年に延長され、30 年以上継続している。2016 年 12 月、参加国は、米国漁船が協定国が生産的なマグロ漁業海域へのアクセスできるようにする方法を近代化し、協定を更新した。この協定は、国際的な漁業協力のモデル協定で、漁業オブザーバーおよびデータ報告要件、ならびに地域の漁業監視体制、管理および監視基準の確立に役立てられた。

これらの種類のイニシアチブを構築するためには、より一層取り組みを行う必要がある。その他の遠隔水域における責任をもって取り組みを行っている漁業国は、国家権限の下、違法漁船および輸送船に対してより厳しい態度を持って臨み、この地域の経済を主にけん引しているマグロの長期的な持続可能性を確保する必要がある。マグロの展望はインド太平洋全体の未来に緊密にかかわっている。太平洋諸島諸国の経済と同様に、地域全体のセキュリティも然である。


漁獲量激減に関するケーススタディ

「ドーナッツホール」の中央ベーリング海におけるスケトウダラの事例を考察する。この地域は、アラスカとロシアの間にあり、地中海よりもわずかに広い公海に位置している。ロシアと米国の排他的経済水域がドーナッツホールを囲んでいるが、法規上は公海であり、どの国の漁民もアクセスできる。肥料からフィッシュサンドイッチまで、あらゆるものに使われているスケトウダラが豊富に採れる。国際船舶は1983年から1993 年までドーナッツホール内のスケトウダラを非情なまでに獲り、1989 年から 1990 年のピーク時には、スケトウダラの水揚げ量は 140 万トンを上回った。しかし 1990 年から 1991 年には、水揚げ量は 30 万トンに至らない程度にあえぐこととなる。翌年、乱獲により漁業量は激減する。2016 年の最新調査を行った時点で、漁獲量は枯渇してしまっている。

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