知的情報の 追求

知的情報の 追求

購買力、窃盗、スパイを活用して技術的優位性を獲得する中国

FORUM スタッフ

国政府の報告書によると、国際規範に反する方法で機密技術情報や企業秘密の窃盗を試みる中華人民共和国(中国)が経済侵略政策を追求していることで、知的財産(IP)の安全性が脅かされ、世界経済が危険に曝されている。

同報告書「How China’s Economic Aggression Threatens the Technologies and Intellectual Property of the United States and the World(仮訳:中国の経済攻勢が米国や世界の技術・知財をいかに脅かすか)」によると、中国は防衛産業の発展を含め、自国の将来的な経済成長の推進に役立つ新興のハイテク産業を狙っていると、通商製造政策局(OTMP)は考えている。

2018 年 6 月の報告書には、「急速な経済成長を遂げて世界第 2 位の経済大国に成り上がった中国は、産業基盤を近代化し、グローバル・バリューチェーン (GVC)を拡大している」および「しかし、この成長の大部分は国際規範や規則に反する攻撃的な行動、政策、慣行(総称して「経済侵略」という)により達成されたものである」と記されている。

下:米国海軍のBluefin-21 などの潜水艇に関する軍事機密が、中国生まれでフロリダ在住の女性により中国政府に提供された。米国海軍

国家防諜安全保障センター(NCSC)による報告書、2018 年「Foreign Economic Espionage in Cyberspace(仮訳:海外からのサイバー空間における経済スパイ活動)」によると、中国の戦略的目標は包括的な国力、技術革新主導の経済成長モデル、および
軍隊の近代化を達成することにある。米国政府の報告書によると、こうした目標を達成するために、中国の産業政策は世界各地から技術および知財を「導入し、消化し、吸収し、再革新する」ことを目指している。

中国の方法には国家ぐるみの知財窃盗、サイバースパイ、輸出規制法の回避、偽造、海賊行為が含まれていると、同報告書には記されている。米中経済安全保障問題検討委員会(USCC)によると、「中国は米国企業に対して商業スパイ活動を行っていると考えられる。これには、人を潜入させ、米国企業の情報システムに体系的に侵入して知財を窃盗し、その価値を減じることで、劇的な低価格で獲得するという手段が含まれる」。

中国は民間企業および政府による技術革新を対象として同企みを実施している。独立系の「米国知的財産権窃盗に関する委員会」は、主に中国の知財窃盗により年間 22 兆 5,000 億円相当(2,250 億米ドル)から 60 兆円相当(6,000 億米ドル)の損失が発生していると結論付けている。中国はまた、他のインド太平洋経済も狙っている。米国に拠点を置く情報セキュリティソリューション提供企業の SecureWorks は 2017 年10月に発表した報告書で、2012 年以来、中国を拠点とする「ブロンズ・バトラー(Bronze Butler)」と呼ばれる集団が日本のテクノロジー企業の知財窃盗を試みていると述べている。

SecureWorks の CTU(Counter Threat Unit)による分析では、ブロンズ・バトラーはコンピュータシステムの未知のソフトウェアの欠陥とセキュリティのギャップを悪用して、戦略的にウェブサイトを侵害している。また、信頼できる人物や事業体になりすまして機密情報を取得するスピアフィッシングという技術を使用している。

時に中国の機密技術情報の窃盗は軍事的用途を目的としている。大手防衛関連企業のコンピュータネットワークへの侵入を試みた容疑で中国の実業家が有罪判決を受け、2016 年7月に米国刑務所における懲役 4 年の刑を宣告されている。この 51 歳のス・ビン(Su Bin)は C-17 軍用輸送機、F-22 戦闘機、F-35 戦闘機に関する計画を含む事機密情報の入手を企む中国軍当局者の計画に参加した容疑で有罪判決を受け、46 ヵ月の懲役刑および 100 万円相当(1 万米ドル)の罰金刑が科された。

右下:中国の諜報機関は複数のソーシャルメディアネットワーキングアプリケーションを使用して、企業 秘密窃盗の試みを実施 している。 AFP/GETTY IMAGES

国家安保担当のジョン・カーリン(John Carlin)司法次官補は声明の中で、「ス・ビン容疑者の判決は、中国人民解放軍空軍のハッカー等と共に不正アクセスにより米国の軍事機密情報の窃盗を企てた陰謀で自身が認めた部分の犯罪に対する刑罰である」と説明している。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、ほんの数年前、信用情報会社の Equifax Inc.(エクィファクス)の幹部等は FBI(米国連邦捜査局)と CIA(中央情報局)に対して、同社が中国の企業スパイによる被害を受けたと話している。2015 年、当時の従業員が退社して中国に帰国する前に何千ページにもわたる専有情報が紛失したことで、同社の安保担当者が不審を抱いた。

同資料には計画されていた製品のコード、人事ファイル、マニュアルが含まれていた。当時、中国政府が自国に信用報告システムを構築する支援を 8 社に依頼していたという事実が判明したことから、不審がより高まった。新聞報道によると、企業秘密の窃盗が実際に発生したと FBI が確信していたにも関わらず、最終的に捜査は行き詰まっている。

中国は情報収集に多大な資金を投資している。米国政府の発表では、中華人民共和国国家安全部は 4 万人の諜報部員を海外に配備し、中国本土にも 5 万人以上を維持している。民主主義防衛基金(FDD)の報告書によると、同投資により、中国は国境を越えた世界中の知財窃盗の 50%から 80%、および米国における全サイバー対応経済スパイの 90%以上を実施している。

サイバー脅威

国家防諜安全保障センターの報告書によると、中国はサイバースパイ活動を通じて企業秘密および専有情報を明るみにする手段を用いて、米国の技術獲得に向けた広範な企てを実施している。米国政府の発表では、企業秘密の窃盗だけでも、米国で年間 18 兆円相当(1,800 億米ドル)から 54 兆円相当(5,400 億米ドル)の損失が発生している可能性がある。

民間企業および政府機関と協力して Verizon(ベライゾン)が実施した 2012 年のサイバー侵入に関する調査では、4 万 7,000 件を超えるセキュリティインシデントが分析されており、621 件のデータ開示が確認された。少なくとも 4,400 万件の記録が侵害されている。経済スパイに関連する開示のうちの 96%が 「中国の脅威主体」によるものであった。

輸出法の回避

研究と複製を目的として、中国の工作員は物理的に自国に技術革新を持ち込む場合もある。オーランド・センティネル紙が報じたところでは、2016 年9 月、違法に配送する、およびスーツケースに隠して運搬するという手段で潜水艦用の部品を中国の大学に届けた容疑を問われた中国人女性に対して、米国の連邦判事は約 2 年間の懲役刑を宣告している。

判決当時 55 歳であったセントラルフロリダ大学の元従業員、エイミン・ユ(Amin Yu)は、中国政府の下で行動していることを白状しなかった容疑および中国に配送したものについて虚偽の発言をした容疑で追訴されている。ユ容疑者は外国代理人として
登録せずに海外に商品を輸出した罪および国際的なマネーロンダリングを企てた罪を認めている。米国地方裁判所のロイ・B・ダルトン・ジュニア(Roy B. Dalton Jr.)判事はユ容疑者に対して懲役 21 ヵ月執行猶予 2 年の有罪判決を宣告した。

ダニエル・イリック(Daniel Irick)検事補によると、ユ受刑者はペーパーカンパニー、オフショア口座、偽造文書を含む陰謀の片棒を担いだと、オーランド・センティネル紙は報じている。同受刑者が関与した違法取引は 2 億 6,000 万円相当(260 万米ドル)に及ぶ。

同受刑者は司法取引として、中国公立大学のハルビン工程大学に勤務していることを認めている。米国政府の報告書によると、同受刑者は潜水艇、無人潜水艇、遠隔操作型の無人潜水艇、自律型無人潜水艇の開発を目的として、米国企業から潜水艇のシステムと部品を取得して中国に輸出していた。

同事件により、輸出規制法を執行する国々に重要な問題、つまり軍民両用(デュアルユース)技術の発展に関する問題が提示されることとなった。米国政府の報告書には、「たとえば、航空用エンジン技術には明白な商業用途がある。中国のような戦略的、経済的、軍事的競争相手がこれを獲得した場合、軍事目的のために市販品が悪用される可能性がある」と記されている。

中国のソーシャルメディアへの侵入

他の国々の諜報機関と同様に、中国は米国のソーシャルメディアサイトに侵入して人材を募っている。2018 年 8 月、国家防諜安全保障センターのウィリアム・エバニーナ(William Evanina)長官はロイター通信に対して、中国政府は人気のビジネスネットワーキングサイト「LinkedIn」を自由に利用して、政府の情報や企業秘密へのアクセス権を持つ米国市民を募っていると話している。

中国の諜報機関職員はすでに何千人に及ぶLinkedIn メンバーに接触しているとエバニーナ長官は述べており、英国当局とドイツ
当局は以前、中国が潜在的なスパイを勧誘するためにソーシャルメディアサイトを利用していると警告を発している。同長官は Microsoft Corp. が所有する LinkedIn に対して、イランおよびロシアの諜報機関にリンクされた偽アカウントを一掃したTwitter、Google、Facebook 各社の対策に倣うことを要請している。

米国の国家防諜安全保障センターを率いる同長官は、「最近、Twitter はおそらく何百万件に及ぶ偽アカウントを排除しており、当センターの要請により LinkedIn も同様の措置を実施することになるであろう」と語っている。

イラン、北朝鮮、ロシアも LinkedIn や他のプラットフォームを利用して諜報関連の人材を特定しているが、米国情報局高官は中国が最大の脅威であると述べている。FBI 情報部のジョシュア・スクール(Joshua Skule)次官補は、中国によるスパイ活動全体の約 70%は政府ではなく米国の民間部門を対象としていると説明し、「中国は史上最速で経済スパイ活動を実施している」と語っている。

過去 1 年以上にわたって中国の攻撃的な活動について警告を発してきた専門家等は、2017 年 6 月、中国のハッカーが米国企業に明確に焦点を絞っていると米国上院外交委員会に報告している。活動は一時的に鎮まったように見受けられたが、米国企業に対するサイバースパイ活動は民間部門を対象とする [知財の] 大規模窃盗の企てとして「通常営業」に戻ったようであると、ワシントン DC に拠点を置くシンクタンク、民主主義防衛基金のサマンサ・ラヴィッチ(Samantha Ravich)顧問は述べている。

2015 年に当時のバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領と中国の習近平(Xi Jinping)主席が、米国と中国は両国共に商業上の利益を目的として 「企業秘密または他の事業機密情報を含め、サイバー攻撃による知財の窃盗を実行または故意に支持しない」との合意を結んでから、米国企業に対する中国のハッキング行為は減速したように見えた。実際、中国によるサイバースパイ活動に関して最初の減速が見られたと 2016 年にサイバーインテリジェンス企業が報告しているが、2017 年には再び急増したことを示す複数の報告書が発表されている。

中国はまた、ソーシャルメディアを通じて西ヨーロッパ諸国を狙っている。2017 年末、中国諜報機関が LinkedIn を利用し、おそらく情報提供者として勧誘するために少なくとも 1 万人のドイツ人を標的にしたと、ドイツ内務省の連邦憲法擁護庁は主張している。2018 年 6 月、中国の諜報部員が偽のソーシャルメディアプロファイルを使用してドイツ連邦議会の議員等に接触し、
専門知識および内部情報と引き換えに金銭を申し出たと、ドイツの日刊新聞である南ドイツ新聞も報じている。中国の諜報部員は議員等を中国に招待し、圧力をかけて情報を取得しようとした可能性も考えられる。

2017 年末にドイツの国内諜報機関が発表した詳細によると、同ソーシャルネットワーク・プロファイルは、ドイツの役人および政治家に関する個人情報の収集を目的として中国の諜報機関が偽装したものである。

ドイツの国内諜報機関はソーシャルメディアサイトで貴重な個人情報が漏洩する危険性について自国の公務員に警告を発し、声明の中で「ここしばらくの間、中国の諜報機関は LinkedIn などのネットワークを利用することで、情報を抽出して情報源を発見することを試みている」と述べている。

学術界の工作員

米国政府の報告書によると、中国の工作員はそれぞれの分野で名を馳せた学者、研究者、技術専門家、科学者等を積極的に勧誘している。通常、同策略は中国企業が買収、提携、または投資することを希望する企業の幹部を対象としている。中国政府が運営する人材採用プログラム「千人計画(Thousand Talents Plan)」は、技術分野における知財権、主要技術、特許を保有している可能性のある最高レベルの研究能力の学者等を対象とする政策で、多くの場合、中国は狙った人物に対して自国の研究機関、研究所、大学における高給な名誉ある地位を申し出る。

中国はまた、米国の大学やシンクタンク、研究所に多数の中国人学者や学生を送り込んでいる。米国政府の報告書によると、毎年 30 万人以上の中国人が米国の大学に在籍する、または米国の国立研究所、技術革新センター、インキュベーター、シンクタンクに就職しており、中国人大学院生の約 25%が科学、技術、工学、数学を専攻している。また、中国政府は「将来的に主要軍事システムにとって不可欠となる可能性のある技術を習得することを、科学と工学を専攻する中国人学生に奨励することを目的としたプログラム」を導入したと、同報告書には記されている。

2018 年 2 月、FBI のクリストファー・レイ(Christopher Wray)長官は米国上院諜報活動特別委員会に対して、中国人教授、科学者、学生等が国内の学術センターで諜報活動を実施している可能性について警告しており、FBI は大学内で中国政府の奨学制度が絡む学術環境を監視している。レイ長官は、一部の学術機関では、その構内で誰が諜報活動を実施しているかを把握していないと思われると指摘する。「学術界は純朴性が高いことから、これによりそれ自体の問題が発生していると考えられる」と述べている。

学術界に関する懸念は米国に限ったものではない。2017 年 10 月、オーストラリア保安情報機構 (ASIO)のダンカン・ルイス(Duncan Lewis)防衛長官はオーストラリア政府の政治家等に対して、オーストラリアの大学は学術環境に対する外国の影響を「非常に意識する」必要があると警告している。

ロイター通信が報じたところでは、外国勢力はオーストラリアの国民、報道機関、および政府高官の意見を「こっそりと形成することを目的としている」と、ルイス防衛長官は述べている。

オーストラリア戦略政策研究所による 2018 年10 月の報告書には、公立大学への中国侵入リスクは実際に影響力を振るう行為よりも重大性を秘めていると説明されている。今日、軍事機密が危険に曝されている。2007 年以来、中国人民解放軍(PLA)は 2,500 人を超える軍事関連の科学者と技術者に海外留学、特に「ファイブ・アイズ(Five Eyes)」協定国への留学を対象とした奨学制度を提供している。ファイブ・アイズはオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、米国が結んでいる情報共有
協定である。

同報告書には、「オーストラリアに渡った少なくとも 17 人を含め、何十人にも上る中国人民解放軍の科学者等がその軍隊との関係を隠して、ファイブ・アイズ協定国および欧州連合に渡り、極超音速ミサイルや航海技術などの分野に従事している。こうした国々は中国を安保同盟国とは見なしておらず、むしろ諜報活動における主要敵対国と考えている」と記されている。

また、中国人民解放軍は学術環境で軍事機密を収集するプロセスを「外国の花を摘み取り、中国で蜂蜜を作る」作業と表現していると、報告書は述べている。

知財の購入

中国が技術的優位性を獲得する 1 つの方法として、その資金力を利用する手段が挙げられる。中国政府の代理として働く人員は、M&A(合併/買収)や創業資金の援助、そしてベンチャー企業の資金調達といった手段を用いて世界各地のハイテク産業を
戦略的に狙っている。

米中経済安全保障問題検討委員会(USCC)によると、2016 年に米国で行われた買収の 96%を中国の投資が占めている。2017 年上半期においても、その傾向は変わらず、米国における中国の投資は買収全体の 97.6%を占めている。

比較的新しい現象として、中国がベンチャー企業や新興のテクノロジー企業に資金を提供するベンチャー資金取引に、積極的に取り組んでいる状況が挙げられる。米国国防総省が発表した「China’s Technology Transfer Strategy: How Chinese Investments in Emerging Technology Enable A Strategic Competitor to Access the Crown Jewels of U.S. Innovation(仮訳:中国の技術移転戦略:新興技術への中国の投資により、戦略的な競争相手がどのように米国の革新技術のクラウンジュエルにアクセスできるようになるか)」によると、2009年に設立されて以来、中国を拠点とするベンチャーキャピタルファンド「創新工場 (Sinovation Ventures)」は 1,200 億円相当(12 億米ドル)の資金を蓄え、人工知能を扱うプロジェクトに取り組む 25 社を含む約 300 社のスタートアップ企業に投資している。創新工場は穀歌(Google China)の元幹部、李開復(Kai-Fu Lee)により設立された投資
会社である。

中国が同技術を取得する 1 つの方法として、米国の破産裁判所に目を付けるという手段が挙げられる。2018 年 10 月に米公共ラジオ局(NPR)が伝えたところでは、中国企業は半導体のような価値のある技術を製造する中小企業を狙っている。また、中国企業は米国企業との合弁事業を設立することで、対米外国投資委員会(CFIUS)の精査を回避できることを認識している。

米国政府の報告書は中国によるベンチャー投資に関連付けられるリスクについて警告している。同報告書には、「中国が投資を行っている技術は、人工知能、自律車両、拡張現実、仮想現実、ロボット工学、ブロックチェーン技術など、将来的に米国の技術革新の基盤となるものばかりである。さらに、上記の技術は今日の米軍の技術的優位性をさらに発展させるために米国国防総省が関心を持っている技術の一部でもある」と記されている。

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